業務を遂行するにあたり、可能な限りミスは回避しなければなりません。ミスをすると引っ張ってしまう場合もあり、他のミスを誘発したり業務に打ち込めなくなったりするからです。
業務上のミスをゼロにはできませんが、努力次第で可能な限りミスは回避できます。今回は業務上のミスを回避するために必要なツールや考え方について解説します。
言うまでもありませんが、業務のミスは少なければ少ないほど良いです。ミスが多いと「上司に怒られる」「クライアントからクレームを受ける」「自身の信頼が下がる」など悪い方向にばかり流れてしまいます。
しかし、業務にミスはつきものです。人間である以上、完全な「ゼロ」にはできないのです。事実、ハーバート・ウィリアム・ハインリッヒが1929年に出版した論文では「人間の不安全行動と機械的物理的不安全状態が原因の災害のうち98%は予防可能である」とされています。
ここでの災害は労働災害を指していますが、つまるところ業務上のミスだと解釈できます。
↓論文をご覧になりたい方は是非。(全文英語の原文です)
ただ、業務上のミスは許されるものと許されないものがあります。
例えば謝って許される社内のミスもあれば、謝って許されない対外的な信用を失うものがあるのです。
ハインリッヒの論文では、日頃から小さなミスを繰り返していると、このような犯してはいけないミスを起こすとされています。
業務上のミスは少ないに越したことがありません。しかし、人間はミスをするものですし、日頃からミスをしていると取り返しのつかないミスを犯す可能性があります。それを防ぐために、日頃からミスを回避する行動が必要なのです。
業務上のミスを回避するためには、ITツールの利用法を意識してみましょう。以下では筆者がおすすめするITツールの利用法を解説します。
業務上の連絡ミスを回避するために、連絡のフォーマット化をしてみましょう。共通のフォーマットを利用すると、ミスをさらに回避できます。
そもそも連絡ミスが起こる理由に、「人によってメール・チャットの文言、書き方が違う」ということが挙げられます。例えば「メールの体裁が異なっている」「重要な部分の強調方法が異なっている」などです。これらが原因で認識ミスが起こってしまいます。
結果、情報が上手く伝達できず認識齟齬が生まれてしまいます。それが最終的にミスを生み出してしまうのです。
これを回避するためには、連絡のフォーマット化がおすすめです。例えば重要なメールは以下のようなフォーマットを決めておきます。
あらかじめ決められた重要なやり取りはそれを利用すると、認識齟齬によるミスを減らせます。
ファイル共有でのミスを回避するために、ファイル管理をルール化しましょう。例えば社内ファイルサーバーの利用ルールなどを定めます。
各々が好きなようにファイルを管理すると「必要なファイルが正しく共有できない」との問題を引き起こす可能性があります。例えば似たファイル名のバージョン違いを開いてしまう可能性があります。
これを回避するためには、ファイル管理を明確なルールに沿わせることが必要です。例えば以下のようなルールにしてみます。
今回であればフォルダの名称は「日付_格納するファイルの種類_顧客名」でプロジェクトIDは「部門名-連番]です。
特定のルールを利用することで、「確実に」「ミスなく」共有するファイルが指定でき、ファイルの取り違いミスを回避できます。
タスク管理ツールを導入すると良いでしょう。上司など他人とタスクを共有することで、期日超過などのミスを回避しやすくなります。
基本的にタスク管理ツールは、タスクの期日を設定できます。自分が持つタスクを可能な限り登録しておけば、共有した相手に事実も含めて伝えられるのです。
タスクを部下と上司間で共有すれば、上司は部下のタスクが一目瞭然になります。どのようなタスクを有しているかだけではなく、タスクの期日まで把握できるのです。
管理される側が、適切にタスクを登録している前提ではあります。この前提さえ守っていれば、上司のフォローでミスを回避しやすくできるのです。
ただし、タスク管理ツールを導入すると、上記のとおりタスクに縛られた業務になってしまいます。新しく「タスクを登録する業務」「タスクを確認する業務」などが発生してしまいます。つまり、今まで以上に日々コストが発生しますし、そもそも導入コストも発生します。
また、タスク管理ツールを導入すると、その後の利用が義務付けられてしまいます。それも踏まえ「コスト」「運用難易度」「機能」など、多角的にどのツールを導入するのか評価もしなければなりません。
業務上のミスを回避するための考え方を、書籍から抜粋してご紹介します。
中尾政之著「なぜかミスをしない人の思考法」によると、「ミスを自分事とするか他人事とするか」で、その後のミス発生率に大きな差が出るようです。言うまでもなく他人のミスも自分事のように対応できる人が、その後のミス発生率を低くできます。
また、自分のミスを他人事のようにごまかす人は、その後のミス発生率が高まるとされています。ミスはミスと受け止めて、業務上適切な対応が求められるのです。
例えば同僚がメールの送り先を間違えてしまった場合、情報漏洩となる可能性があります。このとき、自分も自分事と捉えられるか他人事と捉えてしまうかが分かれ道です。他人事と捉えてしまうと、自分も同じミスを犯す可能性があります。
重要なことはミスの発生を自分事と捉え、同じミスを犯さないようにすることです。例えば「メールの誤送信であれば宛先確認ツールを導入する」「期日超過であればリマインダーを導入する」などです。
起きてしまったミスはしょうがないものです。同じミスを起こし二の舞にならないためにも、ツールなどを活用しミスを回避しなければなりません。
同じく中尾政之著「なぜかミスをしない人の思考法」によると、ミスの大きな原因は3つあるとされています。具体的には「無知を放置しない」「ミスを無視しない」「自分を過信しない」が6割程度を占めているのです。
まず、無知の放置が新たなミスに繋がります。同じようなミスを起こしてしまい、いつまでも成長しない人になってしまいます。
また、ミスを無視するような行動も新たなミスに繋がります。他人の犯したミスに目を瞑ってしまうような人は、同じミスを引き起こすのです。
これらを防ぐために、他人のミスを含めて知る努力が必要です。
例えばミスの情報を共有するために、社内のポータルサイトに書き込む方法があります。ミスをナレッジとして共有することで、同じミスを回避できるような環境を作るのです。例えば以下のように書いてみると良いでしょう。
他にも、自分を過信しすぎるとミスに繋がります。ただ、自分を過信しすぎている事実は、自分では把握しにくいものです。例えば「作業を依頼したつもり」「メールを送ったつもり」「検収したつもり」などがあります。
タスクの処理については無意識のうちに過信する可能性があります。そのため、タスク管理ツールなどを利用して「抜け漏れなく対応したか」「本当に対応したか」を客観的に確認することがミスの回避に繋がります。
入江 仁之著「OODAループ思考[入門]」では、OODAループ思考が提供されています。これは思考プロセスで「観る(Observe)」「分かる(Orient)」「決める(Decide)」「動く(Act)」の頭文字を取ったものです。
この思考を簡単に説明すると、物事は上記4つの基本的なステップで考えられるということです。基本的には上記の流れですが、場合によってはショートカットする可能性についても触れられています。
ただ、ショートカットをすると、抜け漏れからミスを犯す可能性があります。そのため、結局は愚直に流れに沿って行動するのが良いとされています。
また「決める」を実行するためには、その前提として「分かる」が必要とされています。判断材料があってこそ、決めて行動できるとされているのです。
この流れを実現するためには「教育ツール」「ポータルサイトのナレッジ共有」などによる「観る」「分かる」環境が必要です。それらのインプットを元に、考えて行動できるようにする必要があります。
人間が業務上のミスを犯すのはやむを得ません。人間である以上、ミスを100%回避するのは不可能です。
ただ、ITツールを利用したりそれらを使いこなすための考え方を身につけたりすれば、ミスは最小限に抑えられます。人間の力だけでは難しい部分を、ITの力でサポートしてもらうのです。
なお、ツールを導入しても100%ミスを回避できるわけではありません。ツールに頼りきりになるのではなく、ツールを使いながらもミスを回避する意識は持たなければなりません。
<参考記事>
ハインリッヒの論文:”Relation of Accident Statistics to Industrial Accident Prevention.” H.W. Heinrich .PROCEEDINGS OF THE Casualty Actuarial Society 1929-1930 ,VoIume XVI Number 33–November 19, 1929, Number 34–May 9, 1930, 1930 Year Book[1] , p.170 – 174
https://www.casact.org/pubs/proceed/proceed29/1929.pdf
なぜかミスしない人の思考法:https://www.mikasashobo.co.jp/c/books/?id=100271200