浅草に住む友人が、瓦割りできるお店を教えてくれたので2020年の初めに挑戦してきました。偶然にも2020年は大勢のYoutuberがこの瓦割りに挑戦していて、知る人ぞ知るちょっとした盛り上がりを見せていました。
こういう事に挑戦する人は、そもそも少なからず腕っぷしに自信がある人だと思いますが、そうでない人も好きな枚数でチャレンジできます。私が見ていた限りでは男性なら10枚ほど、女性は5枚ほどだと多くの人が成功していました。
私は、その時点での記録更新を目指し20枚に挑戦しました。若いころは腕力にも少々自信がありましたが40半ばも過ぎた今、別の強みでアプローチすることにしました。数学と物理です。学校での勉強って卒業した後は何の役に立つんだろうと思ったことってありませんか? こんなところで役に立ちました。(笑)
ちなみに、以下に出てくるタイトルは同世代にしか分からないと思いますが、深い意味は全くないので、分からない時はどうぞ気にせずスルーしてください。(笑)
まず初めに瓦について。瓦割りで使用する瓦は通常イメージする瓦とは違います。『のし瓦』と言って、雨よけのため屋根の頂上部に積む、短冊状の瓦です。2枚1組で焼いて製造し、使うときに半分に割って使います。割って使うため、真ん中で2つに割れやすく作られています。割らずに重ねたとき隙間ができるので、失敗しても衝撃が逃げてケガをしにくい点からも瓦の試し割りによく使用されるようです。
そしてお店では、ケガ防止のため『鉄槌打ち』でやるよう説明を受けます。ドラマとかマンガで「ちくしょう!」とか言って机をダーンと叩きつける場面を想像すれば、たぶんそれであっています。拳を振り上げてぶん殴る。
強くぶん殴るとして、筋力だけで殴るよりも筋力プラスαの方が強いに決まっています。なにが利用できるでしょう。そのためにどうしたら良いでしょう。
詳しくは教科書に譲るとして、運動エネルギーは速度の2乗に比例すると習いました。この場合、拳の速度です。拳の速度を上げるにはどうしたものでしょうか。
肩を中心に振り下ろすとき、その速度vは回転半径rと角速度に比例(v = rω)するので、角速度(回転速度)を大きくするか、回転半径を大きくするか、その両方か。
また、理屈はそれとして初速ゼロからいきなり速い角速度を出すのは少々厳しいです。最初は回転速度を上げることに注力し、勢いがついたところで半径を大きくするのはどうでしょうか。こんな風に。
腕が水平になったとき鉛直方向に最大の運動エネルギーが得られるはずです。この要領でぶん殴ったら良いのかもしれません。
しかしここで問題に気が付きます。というのは、のし瓦といえども中心を外すと、さすがに硬くて割れません。正確に測って計算したわけではないし、あれこれは割愛しますが、瓦を20枚重ねたときの高さを80cm、自分の腕の長さ約70cmとして考えてみると、この瓦20枚分の『有効な高さ』がどうしても得られませんでした。14~15枚は割れても20枚には届かなさそうです。
かといって腕が水平になる前の状態から当てれば、拳が瓦に当たる前に手首が瓦の縁に当たり、たぶんケガをします。しゃがんで拳のエネルギーを一番下の瓦まで伝えたら良いのかな。
しゃがみながら撃てば良いのでしょうか。しかしここにも問題がありそうです。ガツンとぶつける撃力(げきりょく)は、当たった瞬間の力は大きいのですが持続しません。1枚目は派手に割れるかもしれませんが、エネルギーがなくなった時点で、その下の瓦は割れません。ケガから守ってくれる瓦の空間が、逆に瓦も守ってしまう訳です。
撃力は要らないので1枚が割れる最低限の力を長時間伝える。そして有効範囲(※上図)を外さないためには、直進性に優れたフォームが有効そうです。
まっすぐ…、右ストレート?
よく見ると、肘って蝶番のような構造をしています。開閉するこの構造は回転運動の一部です。ということは、右ストレートは名前はストレートといっても肩と肘の回転運動の集まりといえそうです。最大の運動エネルギーの瞬間の力は大きくても、長時間継続して力を発する用途には向いていないように思います。
ところで、人間の腕の根本(ねもと)ってどこでしょうか?私は背中(肩甲骨)だと思っています。内転、外転、挙上、下制、上方回旋、下方回旋というらしいのですが、肩甲骨はとにかく色々な方向に動き、腕もまたそれに付随して動きます。この、背中を意識する感覚が今回役に立つような気がします。
肘の開閉や肩の回転に頼らず、足腰から背中を使って拳で重心をぶつける。そんなパンチがあるんです。中国の功夫などで『寸頸』、ブルース・リー世代の自分としては、『ワンインチパンチ』と呼びたいところです。
パンチというよりも体当たりのような感じで大きな『力積』を与えます。ボディへのワンインチパンチで、ブルース・リーが人を後ろに突き飛ばす動画は、Webで探してみたらすぐに見つかることでしょう。
私はもちろん、このワンインチパンチの撃ち方をちゃんと教わった訳ではないのですが、ここまでに考えたことを踏まえ自分なりのやり方を考えてみました。
その我流、強いて言うなら数学流の瓦割り理論を実際に試してみました。感覚的ではありますが、要点はこんな感じです。
そして結果は…、20枚割りに成功しました。
ここで紹介した方法は、自分の体格や感覚に合わせて考えた方法なので、誰もが成功すると保証するものではありません。また、万が一ケガなどしてもその責任は負えません。しかし何はともあれ、何をして遊ぶにもあれこれ考えて遊んでみるのもまた面白いものでした。