日々の業務で起こりうるヒヤリハット。あと一歩で大惨事になるミスをしてしまった、という経験がある方も少なくないのではないでしょうか。
特に機械や重い荷物を使用することが多い製造業では、一つのヒヤリハットが重大な事故につながりかねません。
そこで今回は、製造業におけるヒヤリハットの対処法や具体的な事例をご紹介します。
ヒヤリハットを活かして重大な事故を回避するための方法も解説しますので、ぜひ職場環境の改善に役立ててみてください。
ヒヤリハットとは一つ間違えれば重大な事故につながりかねない、ヒヤリとする、ハッとする出来事を表す造語です。
今回は大きな事故につながらなくても、ヒヤリハットが何度も繰り返されればいずれ重大な事故が発生してしまいます。
そのため、ヒヤリハットを「大事故にならなくてよかった」で済ませるのではなく、リスク管理を行う際の重要な資料として管理することが重大な事故の回避につながります。
ハインリッヒの法則とは、工場で発生した労働災害を分析したことによって算出された、労働災害の発生に関する法則です。
1つの重大な事故やトラブルの裏には29件の軽微な事故、300件の無傷事故が存在するとされる法則で、各数字をとって「1:29:300の法則」とも称されることもあります。
ヒヤリハットはこの法則における300件の無傷事故にあたるため、これらのヒヤリハットに丁寧に対応していくことで、事故の発生を防止できる可能性が上がります。
日常的に発生するヒヤリハットを放置するのではなく、再発防止や事故防止に利用することは、ヒヤリハットに対応する際の基本的な姿勢です。
ヒヤリハットの事例を再発防止に利用することを「ヒヤリハット活動」と呼び、集計を行ったデータを現場のチーム全体に共有することが重要になります。
ヒヤリハットのデータを収集しやすいように、手軽に報告をできる環境や情報共有を容易にする仕組みを事前に用意しておくことが大切です。
製造業でヒヤリハットが発生する主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。
ヒヤリハットの発生原因としてまず挙げられるのは、従業員に対する教育の不徹底です。
研修やマニュアルで作業中に注意すべきポイントを共有できていない、情報伝達がうまくできていないといったことが原因として挙げられます。
経験の浅い新入社員や新規配属となった従業員など、業務環境に慣れていない従業員に関しては、特に注意すべきといえるでしょう。
日々の業務の中で、情報共有ができる時間や環境を設けるといった対策を立てることが、教育状況の改善につながります。
焦りや慣れによる注意力の散漫もヒヤリハットの発生原因となります。
納期の迫った業務対応や、思わぬアクシデントが発生した際には、通常の精神状態で業務を行うことが難しくなるため、ヒヤリハットの発生率が上昇します。
上記は作業に慣れていない従業員に多い事例ですが、ベテランの従業員の場合には業務に対する慣れにも注意が必要です。
これまで繰り返し行ってきた業務であるがゆえに、確認の工程を排除してしまったり、自分独自のやり方で作業を行ってしまうこともあるでしょう。
このような油断や注意力の散漫がヒヤリハットの発生原因となってしまいます。
劣悪な職場環境もヒヤリハット発生の原因といえるでしょう。
長時間労働を行う環境では従業員の心身疲労の蓄積によって集中力の低下が起こり、ヒヤリハットが発生しやすくなってしまいます。
長時間労働の廃止や適度な休憩時間を設けて、心身疲労によるヒヤリハットを未然に防ぎましょう。
また、現場の環境がヒヤリハットにつながってしまうことも考えられます。
機器を乱雑に放置したり、荷物を高く積み上げたりといった、現場の環境が思わぬヒヤリハットを引き起こす原因になるため、これらを防ぐべく職場環境の改善を行うことも大切です。
製造業においてヒヤリハットを防止するための取り組みとしては、以下のようなものが挙げられます。
ヒヤリハットを防止するための取り組みとしてまず挙げられるのは、報告書の提出です。
報告書では、5W1Hを意識して以下のような内容を中心に作成しましょう。
ただし、決まった形はないため、自社の事業内容や業務環境に応じた内容で作成することが大切です。
また、報告書を提出しやすい環境づくりも大切です。
報告書を作成しても、実際に従業員が提出してくれなければ意味がありません。
また、具体的な状況を正確に報告してもらうためにも、報告書はヒヤリハット発生から時間をおかずに提出してもらうことが大切です。
記入のテンプレートを用意しておく、業務時間内に報告書作成のための時間を設けるといった工夫を凝らすとよいでしょう。
KYTは「危険のK」「予知のY」「トレーニングのT」を組み合わせた造語で、危険を予知するための訓練を表した言葉です。
KYTは参加者それぞれが労働災害を防止するための意見を出し、全員で積極的に参加していく形式で行う訓練です。
自分で実際に考えて危険を察知する感性を高めることで、業務の中でも自然に危険を察知するための感覚を養います。
ヒヤリハットや重大な事故の最大の原因となるヒューマンエラーの発生率を下げるために、有効な施策といえるでしょう。
5Sは「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の5つの言葉の頭文字Sをとってつくられた造語です。
清掃や整理整頓といった良好な職場環境の保護のために必要な5要素を表していて、「しつけ」に関しては整頓された状態を維持するための行動を習慣づけることを意味しています。
前述したようにヒヤリハットの原因のひとつには劣悪な職場環境があるため、5Sを意識して職場環境の管理意識を高めることがヒヤリハットや重大な事故の発生を未然に防ぐことにつながるでしょう。
ここでは、製造業で実際にあったヒヤリハットの事例とその原因や対策をご紹介します。
コンベア式の自動箱詰機で発生した製品の詰まりを解消しようと手を入れたところ、停止していたと思っていた箱詰機が突然動き出し、手をはさみそうになったというヒヤリハットです。
箱詰機の完全な停止を確認していなかったことが主な原因として挙げられます。
対策としては箱詰機が停止していることを確実に確認してから除去作業を行う、箱詰機のカバーを外した際に自動で箱詰機が停止する安全装置を取り付けることなどが考えられるでしょう。
大きいサイズの鉄板を2人で運ぼうとした結果、後ろを向いていた従業員の足がもつれて転倒しそうになったヒヤリハットです。
鉄板のサイズの大きさゆえに足元の確認がお互いにできなかった、前向きで運んでいた従業員による周囲状況の共有が足りなかったことなどが原因として挙げられるでしょう。
対策としては互いの声掛けの徹底、大型の荷物用の運搬用具を利用することなどが考えられます。
エレベーターから台車を引き出そうとした際にエレベーターと床の溝に車輪が引っかかり、荷物が運搬を行っていた従業員の足に落ちてきたというヒヤリハットです。
積み荷を支える補助をする従業員がいなかったことが原因として挙げられます。
対策としては台車に多くの荷物を積む際には複数人で作業を行うこと、積み荷をバランスよく積むことなどが考えられます。
今回は、製造業におけるヒヤリハットの対処法や具体的な事例をご紹介しました。
ヒヤリハットは事故につながりかねない危険なものですが、それを反省材料とすることで最も防ぐべき重大な事故の抑制にもつながります。
ヒヤリハットを教訓に職場環境の改善を続け、製造業の業務におけるリスク低減を実現しましょう。