電気自動車は、地球環境を改善するための、脱炭素社会に向けた取り組みの一翼と期待を担う存在です。
2030年までに達成を目指すSDGs (持続可能な開発目標) の17の目標の一つに、気候変動に具体的な対策をとることが掲げられています。
化石燃料であるガソリンを燃焼させ、走行時にCO2 (二酸化炭素) を排出するガソリン車は、地球温暖化の促進につながるとして、電気自動車へのシフトが進んでいます。
この記事では、電気自動車とガソリン車の現在の状況、電気自動車のメリットとデメリット、今後の電気自動車の世界的な普及率と予測推移を見ていきます。
電気自動車は、一般的にEV (Electric Vehicle) の略称が用いられ、車載のバッテリーに充電した電気を動力源として、電動機 (モーター) で走行する自動車を指します。
それに対してガソリン車は、ガソリンを動力源とし、ガソリンを燃やす内燃機関 (エンジン) により走行する自動車をいいます。
ハイブリッド車は、日本では一般にモーターとエンジンの二つを動力源として備えた自動車をいいます。(ハイブリッド車自体の意味は、2つ以上の動力を持つ自動車のことです。)
エンジンを使用しない電気自動車はCO2を排出しないため、環境性能において、より良いとされています。
ここでは電気自動車について、より正確な理解とともに、次の切り口で解説していきます。
電気自動車は、日本では一般的にEVといわれますが、厳密にいうとEVの範囲はもう少し広くなります。
EVは Electric Vihicle の略称で、モーターで車輪を動かす乗り物全般をいいます。たとえば倉庫などで使われる電動フォークリフトなどもEVとなります。
また、ハイブリッド車 (HV) も電気を動力の一つとしているため、 EV に含まれます。
電気自動車については、バッテリーに充電した電気だけで走る自動車であるため、より正確には BEV (Battery Electric Vihicle) となります。
電気自動車のメリットとしては、以下の具体例が挙げられます。
これらのメリットについて、一つずつポイントを抑えながら、電気自動車へのシフトの背景を解説していきます。
電気自動車はバッテリーに充電してある電気を動力として走るため、二酸化炭素を排出しません。
日本の政府は、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標 (カーボンニュートラル) を、2020年に宣言しました。
カーボンニュートラルを達成するためには、温室効果ガスであるCO2の排出量を削減する必要があります。
ガソリン車を減らし、電気自動車に置き換えていくことで、温室効果ガスを減らしてカーボンニュートラルに近づけることが可能です。
電気自動車については、コストを低く抑えることも可能です。
ガソリン代よりも、電気代の方がおおむね安いということもありますが、車載バッテリーへの充電を電気料金の低い夜間に行うと、いっそうランニングコストの低減につながる場合があります。
一日の電気使用量のうち、夜間の割合が高くなるほど電気料金が下がる、東京電力の「夜トク」プランなどもあります。
ガソリン車の場合、ガソリンは原油価格の影響を受けるため、価格が安定しないことと、今後、価格が上昇していく見通しもあり、ランニングコストの面では不安もあります。
また2022年度も、電気自動車の新車購入時には減税や補助金などの優遇措置が継続されます。
国と地方自治体の両方の補助金を受けられる場合もあり、自動車取得時の費用を抑えることができます。
台風や地震などの非常時に電気が使えなくなった際には、電気自動車のバッテリーにある電気を利用することが可能です。バッテリーに蓄えられる電気の容量は多いため、過去の災害時にも役立ってきました。
また、非常時や災害時だけではなく、自然の中でのキャンプなど、レクリエーションにも活用できます。
電気自動車から電気を取り出す方法については、主に次の2つがあります。
電気自動車の購入時のマニュアルに添って安全に行いましょう。
環境に配慮された電気自動車ですが、以下のようなデメリットもあります。
ご自身にとってより良い選択ができるよう、デメリットの部分も一つずつ見ていきましょう。
先述したランニングコストについては、原油価格の変動の影響を受けるガソリン車よりも、電気自動車の方が電気料金は低く一定額のため、抑えることができます。
しかし、自動車本体の販売価格はガソリン車と比較して高額なため、購入時に費用がかかります。
電気自動車は搭載するバッテリーが高価なため、安価な車種でも300万円程度となっています。そのため、収入が下降傾向にある現在の日本では、購入に二の足を踏む場合もあるかもしれません。
価格の高さが、日本国内における電気自動車の普及率が上がらない一因といえます。
ガソリンスタンドで、数分で給油し走行することのできるガソリン車とは異なり、電気自動車は充電に時間がかかります。
充電設備にもよりますが、たとえば、道の駅やガソリンスタンド、高速道路のサービスエリアやカーディーラーなどに設置されている急速充電設備を使っても、電池を空に近い状態から80%くらいまで充電するのには15分~30分程度かかります。
また、一般の住宅や屋外駐車場などの普通充電設備では、数時間から十数時間を要する場合もあります。
また、充電時間だけではなく、充電スポットが身近に少ないというインフラ面の課題もあります。
充電時間は給油時間よりも長くかかるため、ガソリン車が電気自動車に置き換わるとすると、従来のガソリンスタンドの数よりも、充電スタンドの数の方が多く必要になる計算となります。
旅行などに電気自動車で出かける際には、充電時間や、充電スポットの把握、人出や混雑具合などを事前に調べておき、常に電気の残量を把握している必要があります。
電気自動車はガソリン車よりも航続距離 (満タンの燃料で走れる距離) が短い場合が多いため、長距離運転をするレジャーや仕事などの用途には、不安を抱える人もいます。充電スポットの把握やバッテリーの残量などが、気がかりな点となります。
近所や街中での乗用にはあまり心配がないので、どのような用途で車を使うのかも選択時の検討対象となるでしょう。
ここでは電気自動車の普及率を、現在と2030年の予測とに分けてご紹介します。
電気自動車が今後さらに普及していくのは間違いありませんが、日本と海外とでは、普及の仕方や速度は異なるでしょう。
日本と海外を比べた場合の電気自動車の普及率については、以下の解説をご参考にしてみてください。
日本自動車販売協会連合会の統計によると、2020年の電気自動車の新車販売台数は約1万5000台です。乗用車の販売台数が約250万台なので、EVは全体の約0.6%程度と言えます。
政府は、2030年に電気自動車とハイブリッド車の新車販売台数に占める割合を、2~3割に高めることを目標としています。その達成に向けては、現状との開きが大きい状況です。
国・地域別の電気自動車保有台数を見ると、Global EV Outlook 2021によれば、2020年では中国が最も多く451万台となっています。次にヨーロッパが316万台、アメリカが178万台と続いています。保有台数では、人口の多い中国がやはり首位です。
普及率にすると次の通りで、いずれも日本より高くなっています。
また、2020年の販売台数は、中国が115.9万台、ヨーロッパが137.2万台、アメリカが29.5万台となっています。
ヨーロッパの販売台数が中国を上回っている背景には、次の2点が指摘されています。
2019年の中国とヨーロッパの販売台数を比較すると、中国は106万台、ヨーロッパは56.7万台だったことから、2020年におけるヨーロッパの販売台数増加は顕著です。
現在から約10年後の2030年は、日本でも海外でも電気自動車の普及率が変化すると予想されています。経営コンサルティングファームのボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が、2020年1月に発表したEVの市場予測に関するレポート(Who Will Drive Electric Cars to the Tipping Point?)をもとに、今後の予測を確認しましょう。
日本については、2030年の電気自動車のシェア (新車販売台数における電動車の割合) は、55%になると予測されています。
海外市場と異なる日本市場の特徴は、ハイブリッド車のシェアが引き続き堅調を維持する点です。国内の主要なメーカーが長年にわたってハイブリッド車に多くの投資をしてきたことによります。
世界でのハイブリッド車のシェアは、2030年に7%程度であるのに対し、2030年でも日本は引き続き23%程度のシェアを維持すると予測されています。
また東京都では2050年までに、脱炭素社会に向けて、自動車から排出される二酸化炭素を削減する様々な取り組みをすることも、電気自動車のシェア伸長の一因になると見られています。
世界のEVのシェアは急速に拡大し、2030年には世界新車販売台数に占めるシェアは51%になると推計されています。これはガソリン車とディーゼル車の合計を上回ります。
さらに2030年には、多くの国が電気自動車以外の販売を禁止していることが予想されるため、電気自動車の普及率の上昇は必然と見られています。
既に中国では、2019年の時点で電気自動車以外の自動車の販売を規制を始めているため、2030年には厳しい販売規制が見込まれます。
また、2030年までにはバッテリー価格の大幅な下落も予想されており (現在の5分の1程度) 、電気自動車の総所有コストがガソリン車並みとなり、手が届きやすくなることも想定されています。
今後、電気自動車の普及にともない、以下の実現が期待されています。
しかし、日本で電気自動車を普及させていくためには「電気自動車のデメリット」で挙げた内容と重複しますが、以下の課題があります。
これらの課題の解決が、今後の普及と密接に関わっています。
ガソリン車と比較して高額な電気自動車は、安価なものでも300万円程度が必要です。
そのため、電気自動車よりも安価なガソリン車を購入できる現在は、まだ選択されづらいかもしれません。また、車種がガソリン車に比べて少ないことも課題です。
ガソリン車と異なり、電気自動車が走行するためには充電スポットの整備・拡充が今後の課題です。
ゼンリンの調査によると、2020年3月時点での日本国内の充電スポット数は、1万8270箇所となっています。ガソリンスタンド数の約6割に相当し、スーパーやコンビニエンスストアなど、身近なところにも増え始めていますが、まだ環境整備の途上です。
また、集合住宅での充電スポット整備が難しいことも大きな課題です。集合住宅での設置には、住民の多くの賛成と管理組合の承認が必要であるため、電気自動車の所有者が少ない現況では、なかなか設置への理解が得られず、充電設備の普及が進んでいません。
現在では、集合住宅の9割以上に充電設備がないといわれているため、普及への大きな課題の一つといえます。
電気自動車が長く走るためには、十分な充電が欠かせません。急速充電で走行距離80km分の充電に15分、160km分の充電で30分かかる目安となっています。
普通充電では、充電可能な電力にもよりますが、走行距離80km分の充電に4〜8時間程度、160km分の充電に7〜14時間程度かかります。
電気自動車を普及させていくためには、充電時間を短くする技術革新が望まれます。また、充電設備の費用も、急速充電やポール型充電器の設置には多額の費用がかかるため、普及への課題となっています。
電気自動車の普及は今後いっそう進み、電気自動車以外の自動車の販売が禁止される可能性もあります。ただ、販売されなくなるだけであり、所有しているガソリン車の乗用が禁止になるわけではないため、既存のガソリン車で走行することは可能です。
しかし電気自動車の普及率が上昇すると、ガソリンの給油所が減ったり、ガソリン価格が上昇する可能性などがあります。そうなると必然的な流れとしてガソリン車に乗る人は減少していくと想定されます。
現状では日本と中国は、2035年に新車販売の全てを電動車にする方針を打ち出しており、アメリカのバイデン大統領も2021年に「パリ協定」に復帰して、地球温暖化対策への本格的な取り組みを表明しています。
電気自動車の普及には多くの課題がありますが、海外では電気自動車へのシフトは確実であるため、日本においても流れは必然といえます。
日本の自動車メーカーではホンダが2040年までに電動車メーカーになることを宣言しており、日産自動車もエンジン開発を欧州から順に段階的に終了することを表明しています。
日本は今後さらなる人口減少に陥るため、利益確保のために海外での販路も維持・拡大するでしょう。そのため海外のEV化需要の潮流は日本にも影響を及ぼし、国内においても電気自動車普及への取り組みはいっそう加速すると考えられます。