SAPとERPについて、良く耳にするものの、実際にはどのような違いがあるのかを詳しく知らない方は多いのではないでしょうか。今回は分かりやすく、SAPとERPの違いについてご紹介します。
ERPは「Enterprise Resource Planning」の略称で、日本語に訳すと「経営資源計画」となります。経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報を統合的に管理し、2つ以上の基幹システムを統合したソフトウェアパッケージである、ERPパッケージの略称として称されることが多いです。このERPパッケージを導入することで、企業の基幹業務を一元管理することが可能となります。
ERPパッケージは、仕様の決まった既製品であることが一般的です。そのため、導入時には現場で生じる基幹業務をパッケージに即した形で変更していく必要があります。しかし、現在は世界各国で共通して発売されるERPパッケージも増えており、地域や国の特性に合わせた追加機能開発が可能なERPが増えています。
1990年代から本格的な普及が始まったERPパッケージは、主に大企業向けに開発されました。大企業では所属人数が多く、業務が縦割り化されているため、必要情報の連携のためにERPパッケージを導入することが一般的でした。しかし時代が進むにつれ、「情報」が強固な経営資源として認識されるようになり、中小企業でもERPパッケージのニーズが高まりました。現在では中小企業でも手軽に導入できるよう、クラウド化されたERPパッケージが多数登場しています。
SAPは、ドイツに本社を構えるSAP社が開発・提供するERPパッケージです。1992年に日本法人となるSAPジャパンが設立され、2010年頃より日本でも認知が高まっていきました。世界的に高いシェア率を誇るため、ERPパッケージの中でSAPだけが特筆して紹介されることが多々あります。
世界各国で最も知られているSAPは、多言語による対応はもちろん、各国の通貨や法令への対応もスムーズに行うことができます。また、導入時の初期コストこそ高いものの、後の業務プロセスを最適化するために柔軟な対応を行ってくれる点が強みです。一般的なERPパッケージは、機能面を重視した設計となっています。そのため、自社の業務プロセスの中から適応できる機能を見つけて使用されます。これに対して、SAPは業務プロセスをSAPで対応できるように開発されています。また、それぞれのプロセスに応じて専属エンジニアがいるため、柔軟な開発ができることも大きな強みです。
SAPには、業務領域ごとに分類されたモジュールと呼ばれる機能群が存在します。今回はSAPにおける、代表的なモジュールをご紹介します。
Financial Accounting、通称FIと呼ばれる財務会計モジュールは、SAPの基盤となるモジュールです。SAPの提供が開始された当時は財務会計モジュールからスタートしたと言われるほど、歴史あるモジュールとなっています。そのため、現在もSAPを利用する多くの企業が財務会計モジュールを利用しているとされています。
社外向けの財務諸表を出すことを主な機能として備えており、サブモジュールと呼ばれる必要業務が搭載されています。固定資産会計や債権・債務管理、さらに予算や経費管理などのサブモジュールを追加し、利用することが可能です。
Controling、通称COと呼ばれる管理会計モジュールは、購買や生産、販売のマスタデータを基にして、標準原価や実際原価を計算することができます。企業内でも計算されることが少ない実際原価を、SAP COの利用によって管理する企業は多く存在します。SAP COには社外向けの財務レポート発行を目的とした、収益性分析などのサブモジュールを搭載することも可能です。
Sales and Distribution、通称SDと呼ばれる販売管理モジュールでは、受注から出荷、請求までのプロセスに対応できます。請求情報はSAP FIに連携され、売上計上を行うことが可能です。また、帳票発行にも対応しています。
Material Management、通称MMと呼ばれる購買管理モジュールでは、仕入れ先への発注や購買依頼、入庫、請求書照合を実行でき、請求書照合情報はSAP FIに連携されます。在庫管理機能もあるため、SAP上で在庫管理までを一元化することが可能です。
Logistics Execution、通称LEと呼ばれる物流管理モジュールでは、出荷管理および倉庫管理が可能です。輸送日程計画や輸送経路決定を管理することができ、また、複数の商品の輸送ルートを考慮し、最適案を提案してくれます。
Production Planning and Control、通称PPと呼ばれる生産管理モジュールでは、受注見込みを踏まえた生産計画が可能です。SAP COと連携することで、製造原価を把握することができるため、在庫管理や原価管理に力を入れることも可能です。
Quality Management、通称QMと呼ばれる品質管理モジュールでは、自動で品質検査計画ができるように、様々なデータを基にして検査指示を登録することが可能です。品質検査と在庫ステータスを自動的に連携できるため、スムーズな品質管理が可能です。
ここまでERPおよびSAPについて紹介してきましたが、今一度、ERPとSAPの違いを確認しましょう。
ERPとSAPが並列で紹介されることがしばしばありますが、これらは並列関係にはありません。SAPはあくまでERPパッケージのひとつであり、ERPに包含されると考える方が適切です。
では、SAP以外の有名なERPパッケージについても見ていきましょう。
近年ERPパッケージの中で頭角を表しているのが、オラクル社が提供するOracle ERP Cloudです。大企業だけではなく、中小企業でも利用しやすいERPパッケージです。調達管理やプロジェクトポートフォリオ管理といった管理系モジュールはもちろん、IoTや機械学習にも対応している点を強みとしています。
オラクル社が提供しているERPパッケージです。Oracle NetSuiteは、クラウド発のERPパッケージ。クラウド型のため初期投資を抑えて利用できるほか、コアERPパッケージを別に沿えつつ、Oracle NetSuiteを並行利用する企業も増えています。
マイクロソフト社が提供するMicrosoft Dynamicsは、グローバル展開する企業を中心に利用されているERPパッケージです。他のERPパッケージでは対応しにくい、医療向けのモジュールが搭載されている点が大きな特徴です。
システムインテグレータ社が提供するERPパッケージであるGRANDITは、製造業や建設業に強いERPパッケージです。段階的な機能追加が可能なため、初期費用を抑えた運用が可能です。
SAPとERPについて、両者の違いについて解説しました。導入コストはかかりますが、経営計画を立てる上で、ERPパッケージは非常に有効なツールです。
今回ご紹介したERPパッケージを利用して会社全体の経営計画、効率化に役立ててはいかがでしょうか?