企業がDXを推進するためには、DX戦略を実行に移せる人材の要件を考え、確保するための計画、つまり人材戦略が欠かせません。
今回は、DXの重要性やDXにおける人材戦略とは何かを解説した上で、押さえておくべきデジタル人材の要件および確保の方法について紹介します。
自社のDXを推進するために人材戦略を考える立場にある方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
昨今話題となっている「DX」。よく耳にはするけれど、DXとは何か、なぜ必要だと騒がれているのか知らないという方も少なくないのでは。ここでは基礎知識として、DXの定義や必要性、企業におけるDX事例を解説します。
DXとは、デジタル技術を活用することで、業務や組織の生産性向上およびビジネスモデルやサービスの革新を目指す取り組みです。
代表的なデジタル技術としては、RPAやAI/ビッグデータ分析、クラウド、ブロックチェーンなどが挙げられます。
DXが必要な理由として、レガシーシステムの老朽化や労働人口減少といった課題への対応が挙げられます。
いわゆる「2025年の崖」と呼ばれる問題です。レガシーシステム、つまり古いシステムを放置することで発生する大きな経済損失について、経済産業省が警鐘を鳴らしています。
システムは個社別にカスタマイズ開発することが一般的だった日本。システムのリリース後も要件変更が発生するたびにカスタマイズを繰り返し、今やレガシーシステムの中身は複雑化、ブラックボックス化しています。
さらには、システム開発の属人化が進んだことから、担当者の退職などに伴いメンテナンスが困難となるケースも増えているのです。
システムトラブルの頻発やそれに伴う改修コストなど、レガシーシステムの保守費用が経営を圧迫。2025年から年間約12兆円もの経済損失が発生すると予測されています。
そうした事態を防ぐためにも、DXによるIT環境の刷新に注目が集まっているのです。
今後、労働人口が減少していくなかで、企業はこれまでと同じか少ない人数で、これまで以上の成果を上げる必要性に迫られています。つまり生産性の向上が大きな課題となっているのです。
さらには、GAFAをはじめとしたグローバル企業との競争激化も大きなプレッシャーとなっています。
そのような中、もはやマンパワーに頼れない日本企業の切り札として、デジタル技術の活用、つまりDXが期待されているのです。例えば、RPAやAIによる業務の自動化は重要なDXの一つです。
自動化が進めば、人員が減ってもこれまで通り業務を回すことができます。またクリエイティビティや付加価値の高い業務に社員の時間をより多く使えるようになるでしょう。
分かりやすいDXの事例として、Netflixのビジネスモデルの転換が挙げられます。
Netflixは、言わずと知れた動画配信サービスの企業ですが、実は1997年の創業から2012年までDVDの配送レンタルサービスを展開していました。
2012年、DVDレンタルからネット上の動画配信にビジネスモデルを大きく転換。視聴データを活用しながらユーザビリティやコンテンツをブラッシュアップし続け、会員数は拡大しました。
そしていまでは、動画配信サービスの領域では世界最大手の地位を築いています。大成功したDXの事例といえるでしょう。
次に基礎知識として、人材戦略の定義や立案方法、フレームワークを押さえておきましょう。
人材戦略とは、経営戦略の実行に必要な人材の要件を定め、その確保に向けた計画を立てることを意味します。
どれほど優れた経営戦略も、実行に移されなければ絵に描いた餅にすぎません。そして戦略を実行に移すのは人です。つまり人材戦略の成否が、経営戦略を実現する鍵を握っています。
人材戦略は、経営戦略の理解⇛人材の要件定義⇛人材確保の計画立案、というステップで進めていきます。
人材戦略とは、経営戦略を実現するためのもの。そのため、まずは経営戦略を正確に理解する必要があります。自社が何年後にどんな事業で、どらくらいの利益を得ようとしているのかしっかり把握しましょう。
人材の要件とは、戦略の遂行に求められるスキルや経験、マインドです。例えば、海外売上高を5年後に現在の2倍にしたい、という目標があるとします。その場合、今後求められる人材の要件は、グローバルビジネスの経験や英語力といったものになるでしょう。
要件を満たす人材を、いつまでに何人、どのような手段で確保するのか計画します。人材確保の手段としては、採用や育成、配置転換といった方法があります。また一時的に外部人材を活用することも有効です。
人材戦略の実行にあたっては、主に以下4つのフレームワークに沿って検討していきます。
経営戦略の実行にあたり、自社に足りない人材を外部から獲得するのが採用です。求める人物像を明確化したうえで適切な方法でアプローチし、選考を経て確保します。
OJTのほか研修制度や資格取得の支援制度を整備し、人材戦略で定義したスキルや経験を社員が身につけられるようにします。
戦略の遂行に求められる人材要件と、各社員のスキルや経験をふまえ、適材適所の人材配置を行います。
公平な評価により成果を出した社員に昇給や昇進で報いるなど、優秀な人材の定着化を図ります。
DXと人材戦略の基礎知識について解説してきました。
次のステップとして、DX推進を目指すうえでポイントとなる人材戦略についてみていきましょう。
具体的には、デジタル人材とはどのような要件を満たした人なのか、またどのように確保していけばいいのかにつき、ご紹介します。
経済産業省は「DX推進ガイドライン」の中で、デジタル人材について以下にように言及しています。
- DX 推進部門におけるデジタル技術やデータ活用に精通した人材の育成・確保
- 各事業部門において、業務内容に精通しつつ、デジタルで何ができるかを理解し、DX の取組をリードする人材、その実行を担っていく人材の育成・確保等
※ 人材の確保には、社外からの人材の獲得や社外との連携も含む
引用元:DX推進ガイドライン(経済産業省)
つまり、DXの推進には大きく分けて次の2通りの人材が必要とされています。
デジタル人材(技術系、ビジネス系)を具体的な職種として定義すると、主には以下6つとなります。
参考:デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査(IPA)
DXを推進するためには、これらの人材を採用や育成、または外部との連携により獲得していく必要があるのです。
活躍するデジタル人材は希少な存在です。そのため、企業はさまざまな手段を講じて積極的に確保していく必要があります。
主な人材確保の手段として、以下が挙げられます。
外部から即戦力を採用する方法です。しかしデジタル人材に求められる専門性の高さと、企業からのニーズの強さから希少な存在となっており、あらゆる業界から引く手あまたの状況。獲得の難易度は高くなっています。
報酬面では既存の給与テーブルに囚われない、戦略的な投資が必要となるでしょう。それ以外にも、働く環境や取り組みがいのある仕事、ミッションなど、人材獲得競争で勝てる要素を訴求していく必要があります。
研修やOJT、配置転換などを通して、既存の社員にデジタル活用のスキルを身につけてもらう方法です。デジタル技術に関する各種オンライン講座の受講や、資格取得を奨励するのもよいでしょう。
ただし、リスキルには数年単位の時間がかかります。中長期の取り組みとなることに留意が必要です。
DXコンサルなどを活用する方法です。デジタル人材を採用と育成だけですべてまかなうことは現実的ではありません。採用の難易度は高く、育成にも時間がかかる一方で、DX推進は待ったなしだからです。そのため、外部人材の活用も視野に入れるべきといえます。
みずほフィナンシャルグループでは、DX推進に向けて、社員一人ひとりのデジタルリテラシーを底上げする施策を行っています。
同社は、デジタルリテラシーを以下の3段階で定義しています。
そして社員がステップアップしていけるように、オンライン講座「Udemy」の受講やOJTなどの機会を提供しているのです。デジタルリテラシーは個人差が大きいため、社員が自らのレベルに応じて、幅広いコースを選択できるようにしているといいます。
みずほフィナンシャルグループは組織をあげてデジタル人材の育成にコミットしています。DXに向けた人材戦略の好例といえるでしょう。
参考:DX推進人材を育成し活躍を促す企業の取り組み(みずほリサーチ&テクノロジーズ)
今回は、DX推進に必要な人材戦略について解説してきました。
まずは自社で成し遂げようしているDXの戦略をよく理解することから始めましょう。
そこに向けて必要な人材の要件を定義し、採用や育成、外注などの手段を駆使して、人材確保を目指していただければと思います。