「ERPという言葉は聞いたことがあるけれど、何に使うものなのだろう?」そのような疑問にお答えすべく、今回は、ERPの種類や機能、メリット・デメリット、代表的な製品の特徴や比較までご紹介します。
ERPとは、Enterprise Resource Planningの略で、企業の経営資源を一元に管理し、企業全体の最適化を実現するための経営手法のことです。ERPを実現するためのシステムをERPソフトウェア(または単にERP)と呼び、人事・給与、販売、生産、購買、会計、営業等を管理するための機能を有します。
ERPの起源は、1973年にSAP社がリリースした「R/1」という製品だと言われています。当時は分散していた基幹システムを、同一のアーキテクチャーで統一された一つの統合システムとし、データを一元管理することが主たる目的でした。
ERPが日本市場に登場したのは、1992年のことです。この年にSAP社の日本法人「SAPジャパン」が設立されました。当時、欧米ではBPR(Business Process Re-engineering:業務・組織・戦略を根本的に再構築する経営手法)が注目されており、このBPRを実現するシステムとしてERPを導入する企業が増加。この流れを受けて、日本市場でもERPの導入が始まりました。
日本でERPが普及したのは、1990年後半からすすんだ会計制度の改革がきっかけです。IFRS(国際会計基準・国際財務報告基準)の導入等、日本企業で会計制度をグローバル化する改革が行われる過程で、IFRSに対応するシステムとしてERPの導入が進みました。
そして、2010年代前半には、日本の商習慣に適合した国産のERPが複数のベンダーからリリースされ、費用対効果が向上。その結果、大企業のみならず、中小企業もERPの導入に積極的に取り組むようになりました。
さらに2010年代後半以降、クラウド型のERPが台頭し、ERP導入がより低コストで短期間のうちに行えるようになったことで、多くの企業が導入に踏み切っています。
続いて、ERPのモジュールと機能について紹介します。
ERPは、人事管理、販売管理など機能別に「モジュール」という単位のシステムに分かれています。ここでは、各モジュールが持っている機能について紹介します。
人事・給与管理モジュールは、採用管理、人事評価、給与計算など、従業員の人事情報を管理します。例えば、全社で共有できる人材情報データベースの運用により効果的な人材マネジメントを実現すること、勤怠管理や給与明細発行を電子化し、ペーパレスを実現することができます。人事・給与管理のシステムは、中小企業から大企業まで幅広く導入されています。
人事・給与管理に関する業務をシステム化することで、人為的なミスを防止したり、ルーティン業務を自動化したり、効率化することが期待できます。
また、従業員の実績や評価などをデータ化して管理することができるため、適切な人材を適所に配置するためにも役立ちます。
販売管理のモジュールでは、見積書・帳票・伝票の発行、税金の計算、販売データの集計・分析などが可能です。比較的安価なパッケージ製品も販売されているため、中小企業から大企業まで幅広く導入されています。
導入するメリットとして、システム化による人為的なミスの削減のほか、タイムリーな販売データの集計・分析による経営判断のスピードアップに役立つことが挙げられます。
生産管理のモジュールは、製品の原価や部品・素材の情報、リードタイムなどを総合的に管理します。比較的高価であり、主に大企業で導入されています。
生産管理のモジュールを導入するメリットは効率化です。Excelやメールのやりとり等による属人的なデータ収集作業をシステム化し、ミスを減らしつつ、効率化することが期待できます。
購買管理のモジュールは、商品の発注・仕入、在庫管理業務などをサポートします。多くの場合会計管理(債務管理)のシステムと連携できるようになっており、購買モジュールを用いて商品を発注すれば、その代金が会計システム上の債務として自動的に計上されます。
購買管理のモジュールを導入すると、購買プロセスを効率化することができます。具体的には、発注書の発行や管理、銀行振り込み等の履行プロセスを自動化して、人的コストを削減したり、業務のなかで発生する人為的なミスを減らしたりできるでしょう。
会計管理のモジュールは、日々発生する取引情報の入力や仕訳を自動化し、会計業務全般をサポートします。クラウド型のサービスも増えており、デバイスや時間、場所を問わずサービスを利用することができます。
会計管理のモジュールを導入するメリットは、業務に要する時間を節約し、人的なコストを削減することができる点です。例えば、仕分帳、決算書などの帳簿書類の作成が簡単にできるほか、販売管理や人事・給与管理のモジュールと連携し、自動仕分け作成などができます。
また、人事・給与管理、販売管理、購買管理、営業管理などの各種モジュールのデータをリアルタイムに反映し、一元的に管理された会計データを可視化し、売上、経費など多角的に分析することで、経営判断に役立つ情報をタイムリーに入手することができます。
営業管理のモジュールは、売上実績や商談回数など営業活動に関する様々なデータを可視化し、売上を増やすためのプロセスを示します。
営業管理のモジュールを導入するメリットは、まず、高精度でタイムリーな営業数値の管理が可能になることが挙げられます。
例えば、Excelファイルをマスターデータとして営業数値を管理する場合には、個別の商談で生まれた売上をExcelに反映するまでに数時間、長ければ数日のタイムラグが生じます。
一方で、営業管理のモジュールを使う場合には、外出先であっても、営業担当がシステムに入力すれば、瞬時に売上としてデータに反映できます。さらに、営業管理のモジュールに入力した売上実績を会計管理等のモジュールと連携することができます。
次に、営業活動の品質を均一化し、組織全体の営業力を底上げできる点があります。営業活動の品質は、個人のスキルに依存する傾向があり、属人化しやすいという特徴があります。営業管理のモジュールを導入し、営業活動をきめ細かに記録することにより、好成績の従業員の活動内容を分析することができます。
そのノウハウを全社に展開することにより、再現性の高い成果が期待でき、営業活動の底上げが期待できます。
続いて、ERPの種類について説明します。ERPには、以下のような種類があり、それぞれの特徴やメリット・デメリットについて紹介していきます。
従来、ERPはオンプレミス型のソフトウェアとして提供されてきましたが、近年はクラウド型ERPが多数市場に投入されています。クラウド型はオンプレミス型に比べ、導入が手軽でコストも安価なため、導入する企業が増えています。
続いて、パッケージ型ERPとフルスクラッチ型ERPについて説明します。
パッケージ型ERPとは、標準的な業務を想定して製品化された既製品のERPソフトウェアのこと。そしてフルスクラッチ型ERPとは、対象企業の業務に合わせて独自のシステムを一から構築するERPソフトウェアのことを指します。
続いて、統合型ERPと業務特化型ERPについて説明します。統合型ERPは、会計・販売・人事・生産など、経営に必要な業務の全体を包括するERPソフトウェアです。一方、業務ソフト型ERPは「コンポーネント型」ともいわれ、会計・販売・人事・生産などの業務分野のうち、ある業務分野にのみ特化したERPソフトウェアです。
続いて、ERPのメリット・デメリットについて説明します。前述の通り、ERPには複数の種類がありますが、今回は、オンプレミス型・パッケージ型・統合型ERPであるSAPのERPパッケージを導入したパソナテックの事例を参考にして紹介します。
最後に代表的なERPソフトウェアを紹介します。
クラウド/オンプレミス | 統合型/業務ソフト型 | 特徴 | |
Microsoft Dynamics 365 | クラウド | 統合型 | Office製品に似たインターフェイスで操作性が高い |
SAP S/4 HANA Cloud | クラウド | 統合型 | 独自技術によりデータの高速処理を実現 |
Oracle NetSuite ERP | クラウド | 統合型 | 通貨・言語等のグローバル対応に強み |
Oracle Fusion Cloud ERP | クラウド | 統合型 | 業務モジュールを柔軟に追加可能、拡張性が高い |
Infor SyteLine | クラウド/オンプレミス | 業務ソフト型(業界特化型) | 製造業特化型、広範な機能を標準パッケージで提供 |
OBIC7 | クラウド/オンプレミス | 業務ソフト型 | 国内導入実績多数、会計メインから領域を拡大中 |
ProActive | クラウド/オンプレミス | 統合型 | 保守サポートの期限がなく、長期運用可能 |
ERPとは、企業の経営資源を一元に管理し、企業全体の最適化を実現するための経営手法のことです。ERPを実現するためのシステムをERPソフトウェア(または単にERP)と呼び、人事・給与、販売、生産、購買、会計、営業等を管理するための機能を有します。
ERPには種類があり、それぞれにメリット・デメリットがありますので、比較考量の上で、自社に合った製品を選択することが重要です。
この記事を参考にERPの導入・活用いただければ幸いです。