Covid-19の流行に伴い、テレワークは急速に普及しました。オフィスではなく、自宅やサテライトオフィス等、社外から仕事をするテレワークでは、どのようなセキュリティの問題があるのでしょうか。
今回は、テレワークを行うにあたってセキュリティ対策が求められる背景や、経営者、システム・セキュリティ管理者、テレワーク勤務者それぞれが意識すべきこと、必要なセキュリティ対策およびツールについて紹介します。
テレワークとは、「Tele(遠隔)」と「Work( 働く)」を組み合わせた造語であり、情報通信技術を活用して、働く場所や時間を柔軟に決定できる働き方のことです。「リモートワーク」という言葉も同じ意味で使われています。
日本におけるテレワーク普及の歴史は、1980年代に遡ります。当時アメリカで普及していたテレワークの勤務形態を参考にして、出産や育児に励む女性社員の通勤負担を軽減するため、NECがサテライトオフィスを設置したのがはじまりです。
ちなみにサテライトオフィスとは、企業の本拠地から離れた場所に設けられた小規模なオフィスです。
その後1990年代後半になると、パソコンやインターネットが普及し、テレワークが再び注目を浴びました。バブル崩壊以降、生産性の向上が強く求められるようになったこともテレワーク普及の追い風となりました。
そして2006年には、政府が2010年までにテレワーク人口を倍増する目標を掲げました。結果として、2005年には10.4%であったテレワーク比率が、2008年には15.2%まで増進しました。
そして2020年、Covid-19の流行と緊急事態宣言の発令を契機に、テレワークの普及率は急速に高まり、東京都の調査によると2021年5月時点の都内企業(従業員30人以上)のテレワーク実施率は64.8%となっています。
画像出典元:東京都「テレワーク実施率調査結果」より
これは、第一回の緊急事態宣言が発令された2020年3月の24.0%と比較して、2.7倍の水準です。
テレワークには複数の形態があり、業務を行う場所に応じて、在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイル勤務に大別することができます。
テレワークを行うにあたり、セキュリティ対策が求められる背景には、以下のようにテレワーク特有のセキュリティ上のリスクがあります。
例えば、テレワークで使用するパソコンやスマートフォンには、企業の機密情報が保存されていることがあるため、紛失や盗難を未然に防ぐ必要があります。データが端末に保存される場合には、暗号化しなければなりません。テレワーク端末にデータを保存しないシンクライアントPCにする等の対策も必要です。
また、セキュリティを維持するため、各従業員が各自の端末のソフトウェアアップデートを定期的に行うよう指示する必要もあります。
それ以外にも、オフィス外で社外秘の情報を扱う場合には、悪意を持った第三者によるのぞき見や、音声の盗聴の対策も必要です。
続いて、テレワークを行う企業が、セキュリティを守るために検討すべきポイントを、総務省のテレワークセキュリティガイドラインを参考にして説明します。
効果的なセキュリティ対策を実現するには、「ルール」、「人」、「技術」のバランスの取れた対策を実施し、全体のセキュリティ水準を引き上げる必要があります。
オフィスで勤務する場合と比べ、テレワークでは、インターネットを介するやりとりが増えたり、従業員以外の第三者が立ち入る可能性が高くなったり、コミュニケーション手段や物理的な空間などの環境が異なることから、それに応じた対策が必要になります。
セキュリティ対策を検討する際には、まずはじめに保護すべき情報資産を洗い出し、脅威や脆弱性を事前に把握することが必要不可欠です。そして重要度をつけ、体系的に対策を講じるのです。
ちなみに企業のセキュリティ対策の水準は、全体のうち最もセキュリティ水準の弱い部分で判断されるといわれています。すなわち、どこか一か所でも弱点があれば、どんなに他の対策を講じても全体のセキュリティレベルは向上しないということです。
テレワークの実施に際しては、経営者、システム・セキュリティ管理者、テレワーク勤務者が各々の立場で役割を担い、セキュリティの意識を持つことが重要です。
経営者の役割は、事業の健全な発展とセキュリティリスクへの対応の両側面から、組織のあるべき姿を検討して、方針を示し、システム・セキュリティ管理者に作業指示を行うことです。具体的には、以下のような事項があります。
システム・セキュリティ管理者の役割は、経営者が示した方針や支持を具体化することです。例えば、情報セキュリティに関するルールを策定し、従業員に周知・徹底させるなどの役割を担います。具体的には、以下のような役割があります。
テレワーク勤務者の役割は、システム・セキュリティ管理者が策定したルールを理解し、遵守することです。具体的には、以下のような役割を担います。
クラウドサービスとは、ネットワークを介してコンピューター資源(計算能力、記録装置等)を必要な分だけ利用できるサービスです。
従来のオンプレミス環境(ハードウェアを自ら保有し、システムを構築・運用する環境)とは異なり、組織でサーバー等を保有する必要がありません。
テレワークは、クラウドサービスとの相性がよいと言えます。通常、企業のシステムは自社向けにサービスを提供することを想定して構築しているため、インターネット環境を前提としたテレワークを行うには大規模な改修が必要になることも。
一方、もともとインターネットを介してサービスを提供する前提で設計されているSaaS(Software as a Service:メールやカレンダー、文書作成などソフトウェアを提供するサービス)などのクラウドサービスでは、上記のような大規模な改修は必要ありません。そのため、比較的容易に、短期間で導入することができます。
サイバー攻撃の高度化等の環境変化に伴い、「ゼロトラストセキュリティ」という考え方が注目されています。
ゼロトラストセキュリティとは、外部のみならず、内部ネットワークにも脅威が存在するという前提で、データや機器など、より細かい単位でセキュリティを強化すべきという考え方です。
ゼロトラストセキュリティと対照的な考え方として、従来の境界型セキュリティがあります。これは、内部と外部に境界を設けて、外部からの攻撃を防御するという考え方です。逆に言えば、内部にあるものは、信頼できるものと判断されます。ゼロトラストセキュリティでは、内部にあるものも疑ってかかるという、性悪説に基づいたセキュリティの考え方です。
テレワークでは、インターネットを介して、自宅等の社外から企業の情報資産にアクセスすることになります。近年の高度化したサイバー攻撃に対抗するには、内部に侵入されることも念頭に置いた対策が重要となります。
続いて、テレワーク方式の選定について説明します。テレワークの方式には以下のような種類があります。
総務省の情報セキュリティガイドラインでは、以下のようなフローチャートで整理されています。自社に最適なテレワーク方式の選定に参考にしてください。
テレワークのセキュリティ対策は、以下のような種類ががあります。
そこで有効なのがMDM(Mobile Device Management:モバイルデバイス管理システム)の導入です。遠隔から端末の位置情報を把握し、テレワーク端末上のデータを消去することができます。これにより、悪意のある第三者に紛失端末を拾われて、情報漏洩する危険性が軽減できます。
テレワークのセキュリティ対策が求められる背景には、テレワーク特有のセキュリティ上のリスクがあります。
オフィスで勤務する場合と比べ、テレワークでは、インターネットを介するやりとりが増える、従業員以外の第三者が立ち入る可能性が高くなるなど、環境が異なります。
セキュリティ対策は、テレワークの方式や会社組織の特性を踏まえる必要があります。この記事を参考にして、貴社のテレワークのセキュリティ対策に役立てていただければ幸いです。