BPRとBPOは、似て非なるものです。言葉自体は聞いたことはあっても、両者を明確に区別できる方はそれほど多くないのではないでしょうか。今回は、BPOのコンセプトから、メリット・デメリット、両者の違いなどについて紹介します。
BPRとは
BPRとは、Business Process Re-engineeringの略称で、組織や制度を根本的に見直し、職務や業務フローなどのプロセスを抜本的に設計することで、劇的にパフォーマンスを改善するための取り組みです。
BPRの成り立ち
BPRの起源は1993年、MIT教授のマイケル・ハマーと経営コンサルタントのジェイムス・チャンピーが出版した「Reengineering the Corporation: A Manifesto for Business Revolution」であるといわれています。
同著では、ビジネスのパフォーマンスを劇的に改善するために、ビジネスプロセスを根本から見直し、抜本的に再構築することが提唱されています。
BPRのコンセプト
BPRは、組織の本来的な目的を達成するために、組織や制度を抜本的に見直し、プロセスの観点から、職務、業務フロー、管理制度、システム等を再構築するというものです。
BPRが生まれた背景には、近代の専門化・分業化された組織体制があります。専門化・分業化された組織では、各々が自らの責任を果たすことに重点を置き、組織全体の利益という観点が希薄になる傾向にあるためです。
BPRは、上記のような問題を解決し、全体最適化した組織を再構築することを目的として行われます。全社共通目標の設定、トップダウンのプロジェクト体制構築、権限移譲やITテクノロジーの活用などを通じて、組織の本来的な目的に向けて、全体最適化をはかります。
BPRの4つのキーワード
BRPには4つのキーワードがあります。
根本的
根本的とは、「なぜそれを行っているのか?」、「なぜその方法で行っていたのか?」というような、根本的な問いを立てることです。
抜本的
抜本的とは、表面的な変更や既存の枠組みの範囲内での変更ではなく、古い枠組みをそのものを捨ててしまうことです。
劇的
劇的とは、小規模な改善や段階的な改善ではなく、大規模な改善を一気に達成することです。
プロセス
プロセスは、ビジネス・プロセスを、顧客に対する価値のあるアウトプットを生み出すための行動の集合と定義されています。
これらのキーワードは、BPRを従来の業務改革と差別化するという意味で重要なポイントとなります。例えば、自社の業務改革をふりかえり、「抜本的な変革になっているか?」、「劇的な効果が期待できるか?」などと問い返すチェックポイントとして用いることができます。
www.soumu.go.jp
https://www.soumu.go.jp/main_content/000078232.pdf
https://www.soumu.go.jp/main_content/000078232.pdf
BPRのメリット・デメリット
続いて、BPRのメリット・デメリットについてそれぞれ説明します。
BPRのメリット
BPRのメリットには、以下のようなものがあります。
業務が可視化される
BPRには、業務を可視化し、必要性を含めて見直すためのステップがありす。業務をゼロから抜本的に見直すことで、既存のルールにとらわれることなく、業務の必要性を根本的に判断することができます。
業務を可視化したうえで、重要性の低い業務を廃止したり、アウトソースなどを行うことにより、生産性を向上することができます。
部署横断的な課題解決ができる
BPRは全社的に取り組まれるため、部署横断的な課題解決がはかれるという点もメリットの一つです。部署内では解決できない問題が他部署と連携することによって、解決に至ることも期待できます。
組織の刷新ができる
BPRでは、目標達成のために必要な組織体制についても検討されます。そのため、既存の組織における業務改善にとどまらず、組織体制から根本的に検討し、再構築することができます。
組織間の縦割り化など、組織の課題が、業績向上の妨げになっているケースは少なくなく、BPRを行うことによって、組織が再構築され、問題が解決することがあります。
社員のスキルアップがはかれる
BPRを実施することで、配置転換となる社員が増えることから、新しい業務に対するスキル習得の機会が増えます。そのことによって、社員のスキルアップやモチベーション向上が期待できます。
顧客満足度向上が期待できる
BPRでは、顧客満足度を高めるにはどうすれば良いかという観点を重視します。
顧客満足度が高まることで、売上や利益の向上が見込めるからです。BPRを推進し、高品質な製品・サービスを提供することで、顧客満足度の向上が期待できます。
BPRのデメリット
BPRのデメリットには、以下のようなものがあります。
多大な労力・時間を要する
BPRには、多大な労力・時間が必要です。人件費だけでも莫大な投資が必要になるほか、別途システムや業務委託費用などが必要になることも多いです。
一度始めたら中断できない
一度始めたら、全てのプロセスを完了するまで中断できません。中断した場合、企業全体に混乱を招いてしまうからです。
社員の協力を得られない恐れがある
BPRは全社員の理解と協力を要求する取り組みです。社員がBPRの意義を十分に理解していないと、社員の抵抗を招き、協力を得られない可能性があります。
BPOとは
BPOとは、Business Process Outsourcingの略称で、業務プロセスの一部を専門業者に委託することです。
BPOの成り立ち
BPOは、1990年頃欧米のコールセンターから始まったといわれています。先進国の人件費より、発展途上国の人件費が安いことに着目して、人件費のコストダウンを目指した取り組みでした。
S DIVISIONホールディングス
BPOの歴史 | S DIVISIONホールディングス
https://sdivision-holdings-inc.com/472/
1.BPOの歴史 BPOを利用する企業が年々増えています。例えば、給与のデータ入力はマニュアルが完備されていれば誰でも業務を行うことが出来ます。このような代替性がある労働を社外にア...
BPOのコンセプト
BPOは、企業活動における業務プロセスの一部を、外部委託する取り組みです。企画設計の段階から外部委託するため、アウトソーシングのなかでも、外部委託先の選択肢が広い点が特徴です。
優れた専門性を有する外部業者に委託することで、自社の経営資源を本来的な業務に集中することができます。さらに、人件費などの固定費の変動費化をはかることもできます。
BPOの対象業務
BPOの対象となる業務には、主に以下の8つがあります。
人材採用
募集、書類選考、面接、採用の一部または全てを外部業者が代行します。採用のみならず、人材育成や教育体制の構築まで外部業者に委託することができます。
経理・総務
清算や起票などの経理業務に加え、備品の管理や出張手配などの総務業務も外部委託できます。
受付
来客対応や電話の取次ぎまで外部委託が可能です。
事務
主に重要度が低い事務作業を対象として、外部委託が可能です。荷物の受け取りや仕分け、資料郵送業務などがあります。
コールセンター
主にBtoCビジネスでは、数多くの企業がコールセンターを導入しています。顧客からの電話・メール対応を外部委託することができます。
システム開発
自社に必要なシステム開発を外部委託できます。自社内で開発できないようなシステムも外部委託することにより開発することができます。
データ処理
企業が収集したデータの処理を代行してもらうことができます。スキャニング、データ入力から、分析まで外部業者に委託できます。
マーケティング
マーケティング施策の立案から実行まで、外部業者にアウトソースすることができあす。
BPOのメリット・デメリット
続いて、BPOのメリット・デメリットについて説明します。
BPOのメリット
BPOのメリットには、以下のようなものがあります。
専門性を活用できる
各分野のエキスパートに業務を委託できるため、業務に必要な専門性を必要に応じて活用することができます。
法改正への対応や、最先端の技術の導入なども、各分野の専門家により、確実に迅速に行うことができます。
コア業務に集中できる
外部業者に業務の一部を委託することにより、経営資源をコア業務に集中させることができます。
社員は専門外の分野の教育を受ける必要がなくなり、コア業務に重点的に取り組むことができます。外部委託先の業者のノウハウを吸収して、プロセスの最適化や業務の効率化をはかることもできます。
コスト削減できる
人件費を削減できるほか、業務の効率化を通じてコスト削減が期待できます。さらに、通常は固定費である人件費を変動費化することもできます。
BPOのデメリット
BPOのデメリットには、以下のようなものがあります。
ノウハウが蓄積されない
業務を丸ごと委託するため、社内にノウハウが蓄積されません。また、業務プロセスが把握できないため、コーポレート・ガバナンス上のネックになるリスクもあります。
内製化が困難になる
一度BPO化した業務は、改めて内製化することが困難になります。仮に内製化する場合には、組織変更、人材育成、設備投資など、多大な投資が必要となります。
情報漏洩のリスクがある
BPOでは、顧客情報や企業機密を扱うケースが多く、必然的に情報漏洩のリスクがあります。
BPRとBPOの違い
BPR
BPO
意味
業務改革のこと
業務改善の手段の一つ
目的
根本解決
効率化
対象
業務プロセス全体
特定の業務プロセス
BPRは「業務改革」のことですが、BPOは「業務改善」の手段の一つです。両者は範囲、目的、対象等の面で違いがあります。
BPRは、根本的な解決を目的とするのに対し、BPOは効率化を目標とします。
例えば、BPRでは、業務自体を辞めてしまうという選択肢もありえますが、BPOでは、業務を外部委託して効率化するにとどまります。
BPRは、業務プロセス全体を対象としますが、BPOは特定の業務プロセスを対象とします。
BPRの方がBPOのよりも広範囲の取り組みのため、BPOはBPRの一環として行われることがあります。例えば、BPRの一環としてBPOを行い、全社の業務プロセスを見直した結果、経理の業務プロセス全体を自社から切り離して外部委託するということがあります。
BPR事例
続いて、BPRの事例を紹介します。
日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
日鉄ケミカル&マテリアル株式会社では、グループ会社や事業部門で統一されたシステム基盤が存在していませんでした。管理業務などが全て手作業のため、担当者に依存した属人業務が多いことが課題でした。
例えばExcelファイル1つとっても、個人・チーム単位でそれぞれが使いやすいように使用していたため管理方法が属人化、部門間での情報共有など上手くいかない状態で、抜本的な解決が望まれていました。
そこで、グループ共通システム基盤を導入し、データの一元管理行い、手作業での管理業務、属人的業務をシステム化。結果として、業務標準化、可視化に成功し、業務属人化の問題を解決し、競争力のある業務環境を構築しています。
佐賀市
佐賀市は、財政状況に課題を抱えており、財政改善の一手としてBPRを実施しました。
【施策】
既存事業見直しによる追加的な支出の抑制
下水道事業の共同化
職員の意識改革
などの施策を実行した結果、財政状況の劇的な改善に成功。例えば、ゴミの焼却炉では、設計の段階で無駄な仕様を省くことにより、100億円近い金額を節約することができました。
www.soumu.go.jp
https://www.soumu.go.jp/main_content/000078231.pdf
https://www.soumu.go.jp/main_content/000078231.pdf
BPO事例
最後にBPOの事例を紹介します。
株式会社ブリヂストン
株式会社ブリヂストンでは、トランス・コスモス株式会社のBPOサービスを活用し、設計業務を標準化しています。
【課題】
株式会社ブリヂストンには、上記のような課題があり、改善が求められていました。そこで、トランス・コスモスのBPOサービスを活用、個々に行われていた設計業務を可視化し、標準化しました。結果として、工数不足や属人化の問題が解決し、設計業務は安定化し、設計者を企画開発の領域に注力させることに成功しています。
月桂冠株式会社
月桂冠株式会社は、株式会社パソナのBPOサービスで全国の受注部門を一手に担う受注センターを構築しています。
【課題】
退職等により受注業務の安定的な継続が困難
社員がコア業務に構築できない
月桂冠株式会社には、上記のような課題があり、株式会社パソナのBPOサービスによる解決を選択しました。 BPO導入により、受注業務の標準化とマニュアル化が進んだ結果として、受注業務の安定化の問題は解決し、社員をコア業務にシフトすることに成功しました。
まとめ
BPRは、組織の本来的な目的を達成するために、組織や制度を抜本的に見直し、プロセスの観点から、職務、業務フロー、管理制度、システム等を再構築するというものです。BPOは、企業活動における業務プロセスの一部を、企画設計の段階から外部委託する取り組みです。
両者は範囲、目的、対象等の面で違いがあります。BPRは全体的な変革を志向し、業務プロセス全体を根本的に解決することを目標とするのに対し、BPOでは部分的な改善が目標であり、人・物・情報を対象として、無駄を省くことで効率化を目指します。
それぞれの特性やメリット・デメリットを理解し、自社の現状においてどのような施策が効果的で問題の根本的解決に至るのか、ぜひ検討しみてください。