どのような事業であれ、遅かれ早かれ、いずれ衰退します。
企業存続のためには、既存ビジネスで収益の拡大を目指しつつ、新規事業を発掘して新たな収益の柱を生み出すことが必要です。
本稿は、新規事業立ち上げを成功に導くために必要なスキルをご紹介します。
新規事業立ち上げの担当者にとっては「どのようなスキルを磨くべきか?」に気づく道しるべになるかと思います。
気になる方は、ぜひ最後までチェックしてみてください。
新規事業の立ち上げから事業化までは、一般的に以下の8つのステップを踏みます。
フェーズ | 内容 | 概要 |
---|---|---|
1 | ニーズの把握 | 市場調査によって、ニーズを把握します。 |
2 | アイディア創出 | ニーズを満たすビジネスモデルを構築します。 |
3 | 仮説検証 | アイディアと社内のリソースを検討材料に加え、事業化の方向性を検証します。 |
4 | プレゼンテーション | イノベーション会議など、社内で新規事業の立ち上げを支援しているプロジェクトで、経営層に向けてプレゼンします。 |
5 | 予算確保 | 経営層の承認を得て予算を確保します。 |
6 | サービス開発 | サービスの開発を行います。 |
7 | 市場投入 | サービスをリリースし、ユーザーの獲得を目指します。 |
8 | 事業拡大又は撤退 | 特定のタイミングで事業拡大又は撤退を判断します。 |
どんなに緻密な事業計画を立てたとしても、計画通りに進むことは稀です。
ユーザーの反応を見ながら、6~8のプロセスを繰り返します。
事業化までの流れを抑えたうえで、それぞれのフェーズの質を高めるスキルを見ていきましょう
ここからは、新規事業担当者が持つべきスキルをご紹介します。
「チャンスは常に人々の不満の中にある」
中国のアリババ社を創業した、ジャック・マー氏の言葉です。
新規事業の立ち上げは、まずは情報収集が欠かせません。
情報収集の目的は「ユーザーのニーズを掴むこと」なので、ジャック・マー氏のように社会の課題やユーザーの不満にフォーカスすると、ニーズを把握しやすくなるでしょう。
情報収集では、事業化対象のクライアントに直接を話を聞いたり、社内会議で現場からの意見を集約するなど、「生の情報」が欠かせません。
インターネット検索やリサーチ会社がまとめた資料では、機密性の高い情報が公開されないためです。ユーザーの感情とかけ離れた事業計画に繋がってしまう危険性もあります。
マーケティングでは、4P戦略が有名です。すでに活用されている方も多いことでしょう。
4P戦略とは、Product(製品)、Place(流通)、Price(価格)、Promotion(宣伝)の頭文字を組み合わせた言葉です。
4つの切り口で新規事業の立ち上げを検討することで、事業化戦略が具体化されます。
経営の神様と呼ばれるピーター・ドラッカー氏は、「マーケティングとは顧客の創造である」と語っています。
事業は顧客あってこそ成り立ちます。そのためマーケティングは「情報収集の後」に行うのが鉄則です。ニーズの把握が曖昧なままでマーケティングを進めてしまうと、事業が失敗する可能性が高まります。十分注意してください。
If you can dream it, you can do it.(夢見ることができれば、それは実現できる。)
これは、ディズニーランド創設者のウォルト・ディズニー氏が語った言葉です。
事業化のシミュレーションを入念に行うことで、計画が現実化する可能性が高まります。
あらゆる可能性を考えて、仮説検証を行うことが大切です。失敗するリスクを軽減することにも繋がるでしょう。
仮説を立てたならば、「ABテスト」を活用するなどして実際に市場に投入し、ユーザーの反応を見ることも大切です。
ファシリテーションとは、プロジェクトメンバーの活動が円滑にできるよう支援し、うまくことが運ぶよう舵取りすることです。
いわゆるリーダーシップです。
新規事業は、多くの場合、既存のアイディアの組み合わせで生まれます。
「新規事業が成功する確率は低い」とご紹介しましたが、反対に「成功のアイディアは眠っている」とも言えます。
プロジェクトメンバー間のコミュニケーションが円滑ならば、多くのアイディアが生まれるでしょう。もしかしたら、新入社員との何気ない会話がこれまでの経験と結びついて、事業化のアイディアに結びつくかも知れません。
そのためにはメンバーの心が開いていることが必須です。「あのリーダについていけない」と心を閉ざしていたら、積極性が生まれず、活発な意見交換は期待できません。
立ち上げの担当者になったならば、メンバーの立場を配慮し、小まめにコミュニケーションをとることを心がけましょう。
出典元:Amazon
ファシリテーションスキルの向上には書籍の活用もおすすめです。
たくさんの書籍の中でも「ファシリテーションの教科書」は考え方や方法論を体系的にインプットできます。
新規事業の立ち上げでは、多くのことに取り組まなければなりません。
時間は限られていますので、定型的な業務は効率化し、事業化を進めていくことが求められます。
その際に重宝するのが「ドキュメント」です。
議事録、進捗管理表など様々なドキュメントを用意することで、やるべきことを毎回言葉で伝えなくてもメンバーとの情報共有が実現できます。
また、ドキュメントの活用は、意思決定のルールである「ピザ2枚ルール」の遂行にも役立ちます。
ピザ2枚ルールとは、Amazonの創業者ジェフ・ベゾス氏が提唱したルールで、「意思決定はピザ2枚で囲める人数以下にしなければならない」というものです。
新規事業の立ち上げにおいては、情報はメンバーに周知するものの、スピーディーに事業化を進めるためにも、意思決定は少人数で行うべきでしょう。
意思決定を少人数で行い、ドキュメントでメンバー全員に周知する、このスタンスで事業の立ち上げを遂行すると効率的にプロジェクトを進められます。
「いくら素晴らしいものをつくっても、伝えなければ、ないのと同じ」
これはアップル創業者スティーブ・ジョブス氏の言葉です。
皆さんはiPhoneが世の中に誕生した時のジョブス氏のプレゼンテーションを覚えていますでしょうか?
「見たことがない」という方は、新しい情報を届けるプレゼンテーションの参考になりますので、一度見ることをオススメします。
この時の感動的なプレゼンテーションがiPhoneの爆発的な普及に大きく貢献をした、と言われています。
新規事業のプレゼンテーションは、経営層に向けて、新規事業の立ち上げの合意を得るために行います。
「どのような言葉が響くのか?」、「経営層が納得する情報が届けられるのか?」、「どのような資料を準備するのか?」など、考えなければならないことは豊富です。
昨今は、様々な著名人のプレゼンテーションがインターネット上に公開されています。動画であればスマートフォンで見れますので、通勤時間帯にチェックできます。
世界的に有名なプレゼンテーションといえば「TED」です。数多くの著名人や研究者が昨今の現状や課題についてプレゼンテーションをする動画サイトで、英語・日本語・中国語をはじめ数多くの言語に対応しているのもポイントです。
様々なプレゼンテーションに触れることで、スキルが磨かれるでしょう。
ユニクロの創業者 柳井氏の言葉をご紹介します。
「起業をするのに、特に素質は必要ないと思います。僕はほとんどの人が起業できると思っています。大事なのは、まずは全部自分でやってみること。そこで何回も失敗して、また懲りずに挑戦する。その繰り返しの中で経営者として育っていくんです。」
と語っています。
事業化と起業とでは、資金調達や既存資産の有無が異なるものの、事業化を目指す点では同じです。柳井氏のこの言葉は大いに参考になるでしょう。
また、新規事業の立ち上げは、成功の確率は極めて低いという結果も発表されています。
例えば、リクルートの新規事業立ち上げプロジェクト「Ring」では、応募された事業案の内、実際に事業化されるのは1%以下といいます。
一般的に、新規事業の成功確率は30%以下です。仮に成功する見込みの高いアイディアであったとしても、初めから想定通りの軌道を描くことはほとんど期待できないでしょう。
新規事業立ち上げにおいては、「検証を繰り返しながら微調整を繰り返す」改善力が求められます。
このプロセスは、マネジメント用語では、「PDCA」サイクルと言います。本稿を読まれている方であればすでにご存じの方が多いことでしょう。
P(Plan:計画)→D(Do:行動)→C(Check:評価)→A(Action:改善)の各工程を繰り返し行い、改善を繰り返しながら事業化を目指す姿勢が大切です。
新規事業立ち上げは、いわばマラソンのようなもので、ゴールを設定して走り続けなければなりません。途中で失速しては、事業が失敗し、競合に先を越されてしまうでしょう。
そのためにも、「事業化を成功させる!」とのモチベーションを、常に高く保つ必要があります。
みなさんは、心理学の「宣伝効果」をご存知でしょうか?
これは、自分が口に出した言葉によってセルフイメージが変わる効果のことです。
例えば、「私は、この事業の責任者としてふさわしい人間だ」と宣言したとします。
すると、その時点から「この事業を遂行するのにふさわしい人間になる」という気持ちが芽生え、それを前提に自分の行動を決定するようになっていきます。
宣言効果を活用して、自分のセルフモチベートを高めることがおすすめです。今回ご紹介したスキルを習得するためのモチベーションも、大幅にアップすることでしょう。
とはいえ、新規事業の担当者には、「自分にできるのか」、「失敗するのではないか」などと、常に様々なプレッシャーがかかります。
そのような時は、Googleの共同創業者でCEOのラリー・ペイジ氏の言葉が参考になります。
「そんなバカなことはできない。誰もがそう思うことならば、競争相手はほとんどいない。」
新規事業の立ち上げでは、周りからの賛同を得にくく、担当者は孤立しがちです。
スキルを駆使し、緻密な事業計画を立てたならば、後は自分と事業を信じ続けることです。
これこそが、セルフモチベートスキルといえます。
今回、新規事業立ち上げを成功に導くためのスキルを8つご紹介しました。
事業化のスキルは、「立ち上げから事業化までの流れを意識して、各フェーズの質を高めること」が目的です。
スキルを習得する際は、スキルが空回りしないためにも、目的を明確にすることを心がけてください。
例えば、「プレゼンテーションスキルを磨けば、経営層の承認が得られやすくなる。立ち上げのスタートを円滑に進めることも期待できる」のような、自分なりの目的を持つことです。
さらに、全てのスキルをバランスよく鍛えば、新規事業立ち上げが成功する確率は高まることでしょう。